一口で海苔といってもその姿は千差万別、変幻自在。順列組み合わせでいくと、可能性は無限です。
基本的な海苔の大きさは、全形が横19cm、縦21cmとなんだかチョット中途半端な数字です。でも昔の物差しでいえば六寸三分と七寸、きちんと割り切れます。尺貫法からメートル法に変わったからといって、ノリをすく木枠の大きさや、簀(す)の大きさなど、道具を全部作り替えるわけにはいかなかったのです。それに海苔が小さくなって、巻ずしのごはんの厚さや具の種類が減ってはたまったもんじゃありませんものね。
もっと昔の江戸時代は、採れる村ごとに大きさが全く違い、すく厚さもそれぞれ異なっていました。浅草海苔が浅草紙の形をまねて、長四角になったのもたかだか百年の歴史。それまでは手で押し広げた程度の不規則な形に過ぎませんでした。中国や台湾、夕イなどではそんな形の海苔を、今でも市場で見かけることがあります。
とにかくその全形をベースに、手巻き用の真半分に切った半切、真っ黒に海苔で包むおにぎり用の三等分した三切、ちょっと白いごはんがのぞくおにぎり用の五切、旅館の朝食に必ずついてくるおかず用の縦割り半分四等分した八切、もう少し上品に横割り半分を六等分した十二切と、全部で五通りの切り方があります。それにもみのりと、きざみのり、計七種類が形のサイズです。
その各種類の大きさに、乾燥させただけの乾海苔と、ほんのりと焼き上げた焼海苔と、食べやすく味つけされた味付海苔があります。これがまたパックする段階で、五枚、七枚、八枚、十枚詰めと単純なものから、例えば五枚詰めが六袋とか、十袋とか、三十四袋 2とか、五十六袋とか、多くは八百袋とか・・・。前段階として海苔そのものの品質の等級が百種類以上あるのですから、一つひとつ並べてみれば、天文学的な組み合わせが可能になってきます。たかが19cm×21cmの海苔ですが、されど19cm×21cmの海苔なのです。
おいしさの素をいろいろ合わせ持った海苔は、ツヤツヤと光っていて、 深い色合いをしています。
有明漁協が、最高の海苔の「佐賀海苔 有明海一番」の判をポンと押すのは、〈うま味、香り、口どけ、色・ツヤ・形、一番摘み、ひと網三百枚以内の厳選摘み、育成記録の七つの「おいしい海苔の標価基準」をクリアしたもの〉と決まっています。ひと口で海苔といっても、とにかく入札価格で一枚三百円から三円までの開きがあるのですから、できるだけおいしい海苔を選んで食べたいですよね。
最近少しずつ、日本人が美味と評価している食べ物の正体がわかってきました。コンブのグルタミン酸、カツオ節はイノシン酸、シイタケはグアニル酸、貝はコハク酸など、うま味に関わるニュークレオタイド類のアミノ酸や核酸がからんでいるのです。ノリからはこれらのすべてが検出されると同時に、他にも甘さのアラニンやグリシン、苦甘さのアルギン酸、酸味のアスパラギン酸が含まれていて、数十種のアミノ酸が微妙にミックスされています。しかもその含有量がシイタケやカツオ節の三~五倍だというから驚きです。
そして海苔でもう一つ不思議なのは、どれだけ長期保存しても味が落ちない点。魚の干物を空気にさらしますと、不飽和脂肪酸が酸化していやな匂いを発し、もちろん味も落ちてきます。ところが海苔はいつまで経っても油焼けを起こさず、悪臭も発生させません。純天然産品の海苔の中に、酸化防止をする天然の抗酸化物が入っているのです。
だから気をつけるのは防湿だけ。一度湿らせた海苔は味が劣化し二度とうま味は戻りません。いわゆる風邪ひき海苔になってしまいます。
一帖ずつ帯をかけて裸で売っていた昔と違い、湿気を遮断した袋や缶売りが一般になっ夏た最近では、感触と香りが確かめられませんので、色の見分け方が決め手になってきます。単純にいえば等級が低いものは色が浅くて、つやがありません。佐賀海苔の極上品は、赤味のある飴色がかった漆色をしています。
おいしさを厳しく追及すれば、直前に培って味といっしょに色や香ばしさを食べてください。
海苔をおいしく食べるコツは、焼き加減にもあるんです。一番おいしい焼き方は、海苔二枚を中表に重ね、両方の裏面のがさがさしている簾足(あし)を、万遍なくきれいな緑色になるまで焼くこと。ところが、これがなかなか難しく、火に近づき過ぎて、ボッと燃やしてしまった経験はありませんか? 焼き足りなければ消化が悪いですし、焼き過ぎると風味が抜けてバリバリになってしまいます。
海苔を焼いた時の香ばしい食欲を刺激するような匂いは、アミノ酸と糖質が熱に反応を起こしたものです。海苔にはいろいろな種類のアミノ酸が含まれているため、あの複雑な独特の薫りが生まれるのです。さて次に、焼き色の正体ですが、あれは焼いて色が出てきたのではなく、もともとの黒褐色に含まれていた赤や赤黄の色素が熱で分解され、熱に強いクロロフィルの緑の色だけ残ってしまった消去法なのです。だからクロロフィルを多量に持っている海苔はど、鮮やかな緑になるというわけなのです。
焼く前の乾海苔はまだ約五パーセントの水分を含んでいて、歯でかんでもなかなかかみ切れません。でも一度火を通しますと、口の中でとろけるような感じに変わります。熱が加わって細胞膜が変化し、消化しやすくなったからなのです。数字でいえば焼き上がり水分三パーセントが、最もパリッとおいしく感じる頂点なのだそうです。
海苔を焼くのに一番適しているのは、何といっても昔ながらの炭火。今どき、海苔を焼くためにだけ高価な炭を用意するわけにはいきませんので、オーブントースターやオーブンレンジなどエレクトリックヒーターを使ってみましょう。まず火力が安定して均一なことが第一条件、厳しくいうとガスは燃焼するときに出る水蒸気が、海苔を湿らせてしまうので失格です。でも、魚焼き器などで遮断すれば、それなりにうまくいくようです。
海苔で一番気を使うのは保存方法。 まず密封容器に入れて、風通しが良くて気温の低い所が基本です。
とにかく海苔の最大の敵は湿気です。 海の保存は水分をいかに防ぐかが永遠のテーマといえるでしょう。 乾海苔を焼くと水分量が約三パーセントまで下がります。つまり焼海苔がパリッとおいしいのは、海苔の中のタンパク質が変質するせいもありますが、水分が飛ぶ影響も大きいのです。それがお皿の上にしばらく置いておくと、たちまち水分を吸ってベトベトになり、二度と海苔独特のおいしさは戻りません。
海苔を産地から遠くに運んで売るために乾燥させることを思いついて以来、問屋や仲買人は湿気と戦ってきました。店先に並べなければ売れない、外に出せば湿気るのジレンマです。江戸時代ではカメの底に石灰を敷新海苔を入れて、油紙で密封していました。近年ではアルミ箔を張ったダンボールや木箱に入れて完全防湿し、次の年の新海苔が出るまでもたせます。
アルミパックに入れて零下二十度で保存すれば、三年ぐらいは品質が変わらないそうです。でも風通しがよくて気温の低い所に置いても、密封したブリキ缶で一年、防湿剤の入ったガラス瓶で八カ月、ポリ袋なら三カ月から半年が限度とか。家庭ではたとえブリキ缶に入れても、使う度に開けるのですから、すぐに湿気ってしまうことが多いはずです。
また低温で保存する効果的だと言われています。冷凍庫内は水分が凍って乾燥しているからです。その時はビニール袋に入れて、輪ゴムでしっかり封をしましょう。でも海苔の一部が湿っていて、密封したがためにその水分が外に出ずに、全部を湿らせてしまうこともあります。そして出した時にすぐ袋を開けないで、常温になるまで待って必要な分だけ手早く取り出して再び封をし、すぐ冷凍庫に戻すという気配りも大切です。とにかく海苔は保存が非常に難しいので、品質や管理に信用のおける店で、必要な時に必要な分だけ買うのが一番おいしく食べるコツです。
最大の敵は湿気
どうしましょう
アルミパックに入れて零下20℃なら3年!
うっかり海苔を湿気らしてしまったら、捨てずに、ちょっと手を加えて、 こんな利用法はいかがですか。
わぁ海苔が湿気っちゃった。
わぁたいへん!大事にしまっておいたのに、海苔が湿気っちゃった。どうしようかな、このまま使っても、ふにゃっとしてて、おにぎりだって、お茶漬けだっておいしくない。捨ててしまうのはもったいないし、もう一度焙ればもとにもどるかしら…。
ダメダメ、海苔はとてもナイーブなのです。一度湿気ってしまったら、焙ったとしても香りや風味を取り戻すことはできないのです。
そこで、耳よりな話をひとつ。
むむかしかしのこと。ある外国人が、日本人は、木と紙の家に住み、食事に黒い紙を食べている、といったそうです。黒い紙とは海苔のこと。海藻を食べる習慣のなかった外国人にはそう映ったのでしよう。そして、ある日本人が、外国人に海苔を贈ったところ、利用法(食品と思わなかった)がわからずに、ランプシェードに使ったという笑い話さえあります。
そうです。今は家庭で簡単に真空パックができる機器があるし、湿気った海苔をパックして、電気スタンドの傘に加工したり、ブックカバーを作ってもいいかもしれません……。
なんて、アイディアはまだまだいっぱいあるのですが、こんな利用法だと、ほんとはおしかりをうけそうですネ。食品はやはり、食べ尽くしてこそ、本望なのです。
海苔が湿気ってしまったら、熱を加えて調理する料理に利用してください。
代表選手は海苔の佃煮。海苔を適当な大きさにちぎり、熱湯に入れ一煮立ち、手早くざるにあけて水気を切ります。そのあと、海苔を鍋に入れ、醤油と酒を四対一の割合で濃いめに味をつけ、汁がなくなるまで煮詰めましょう。好みで砂糖やみりんを加えてもよいし、ピリッととうがらしをきかせても、市販のものとは一味違った佃煮に仕上がりそうです。
また、フライパンに油を引き、ちぎった海苔をサッと炒り、パッパッと塩をふれば、酒のつまみにぴったりの一品ができあがり。
でも、佐賀海苔はやわらかくて、焼き立てを口に含めばパーツと溶け、香りが口一杯に広がるうまさが自慢です。湿気ってしまう前に、ぜひそのおいしさを味わってくださいネ。
海苔の佃煮の作り方
しょうゆ4:酒1の割合で
佐賀海苔おもしろ読本
発行/新うまい佐賀のりつくり運動推進本部
佐賀県佐賀市城内1丁目1番59号 (〒840-8570)
[佐賀県庁流通・通商課内〕
電話 (代) 0952-24-2111
平成30年6月発行 (改訂)
協力/佐賀県有明海漁業協同組合
企画/ (株) 電通九州